富士見高原から編笠山と西岳周回
登山日2010年8月20日



編笠山(あみがさやま)標高2524m 長野県諏訪郡・山梨県北杜市/西岳(にしだけ)標高2398m 長野県諏訪郡


さだまさしの無縁坂の歌詞が妙に心に響くときがある。(運がいいとか悪いとかそういう事って確かにあると・・・・)人事異動で他の事業所に転籍となったTさんと久しぶりの山行を計画した。場所は八ヶ岳で当初は午前0時に出発し西岳に登り権現岳から赤岳そして阿弥陀岳経由で舟山十字路まで周回しようと言うものだ。ところがあまりにも長時間であり、二人の現状の体力を考えると無理と判断した。
それでは午前3時に出発して、阿弥陀岳南稜を登り赤岳に向かい、帰りは阿弥陀岳中央稜を下ろうとした。まあ、この辺が妥当だと言う事で二人の意見が一致した。


8月20日(金)


待ち合わせの舟山十字路になるべく早く到着して休むことが必要と考えて、自宅を6時半に出発。途中のコンビに立ち寄りながら現地を目指す。すでにTさんは職場から300キロ近く移動して、現地に到着しているとのことだ。わたしが到着したのは10時近かったから3時間以上運転していた事になる。ひさしぶりにTさんと再会して、まずは無事をよろこびあった。Tさんは実に3ヶ月以上山に入って居ないとの事で、気分が高揚しているようだ。まずは持ち寄ったアルコールの口をあけて乾杯だ。四方山話を交わしながら時間をすごすと、あっという間に1時間は過ぎてしまった。翌日の事も考えて、就寝することにする。ここで予定をさらに変更し、3時半起床で4時出発に切り替えた。これは日の出が5時なので、それほど急ぐ必要もないだろうとの判断だ。


ところで、下界では気温が38度と騒いでいるのに、ここではジャンパーを着ないと寒くていられない。そんなわけで車の中に入っても窓を閉め切った状態でも暑苦しさは感じなかった。まあ、こんな時は寝られないのでウトウトしながら時間をすごす。午前2時ごろ車が一台やってきて、そのエンジン音がしばらく続いていた。それが収まって、しばらくすると隣に停まっているTさんの車内灯が点いたのが解った。漆黒の闇の中だからその明かりは周囲を照らすのに充分過ぎる明るさで、私の車の中もその明かりで、いろんなものが確認できるほどだった。Tさんは気が早いなあ、もう準備を始めたのか。時刻を確認すると午前3時、Tさんの車に背中を向け横になってしばし惰眠をむさぼる。そのうちにTさんが車から降りて、わたしの車の窓ガラスを叩く。
「親父が危篤なので帰ります」
「・・・・・・・・」
「前から入院していたんだけれども、急に様態が変わった」
「とりあえず、運転に注意して帰ってください」
「それじゃ」
Tさんの車はエンジンをかけると、すぐに動き出して、林道を戻って行った。エンジン音が消え明かりも見えなくなり舟山十字路は漆黒の闇が戻ってきた。

さあ、これからどうしようか?急にこの闇が恐ろしくなり、わたしもこの場所から離れる事にした。もう予定していた阿弥陀岳南稜はこの時点で登る事は断念した。それに天候は曇りがちで、前回登ったときと同じで展望がなければ意味がない。車を運転しながら土地勘のある富士見高原鹿の湯の駐車場にたどり着いた。しばらくはここで休む事にしよう。


学生の早朝練習の声で目が覚めた。時間は5時半で周囲はすっかり明るくなっていた。さあ、これからどうしようか?これから登る山なんて限られている。南アルプスも中途半端、この辺の山を歩くのだが得策と考えて地形図を見ると一番近いのは編笠山だ。観音平から登って西岳までピストンした事があるが富士見高原からの別ルートで登るのも悪くない。そこで、準備を始める事にした。富士見高原ゴルフ場の中にある、広い登山者駐車場にとめて朝食を食べてから出発だ。天気は甲斐駒方面は青空も見えているが、編笠山はガスに覆われている。まあ、あまり期待はしないほうがいいだろう。



とっても広い登山者・散策者用の駐車場



登山路と書かれた場所にはコースタイムがあり、山頂まで2時間30分と書いてある。エアリアでは4時間以上なのでその差はずいぶん大きいなあと感じる。とりあえず標識のハッキリとした道を辿って歩いて行く。深い樹林帯の中の道は日が登りはじめたとはいえ、鬱蒼として暗い。苔むした岩がいかにも八ヶ岳らしい雰囲気を出している。途中に丸太橋があり老朽化で危険通行禁止とあったが、まったく問題ないものだった。やがて広い林道に出る「五叉路分岐」とあるが、数えて見るとたしかに5本の道が交わっていた。西岳から戻ったら再びここを通過する事になるのだ。標識に従って編笠山に進んで歩いて行く。Tさんはどうしただろうか、間に合っただろうか気になるところだ。この時点でこの山行に関心を持ってくれていたHさんにメールで状況を送っておいた。


変化のない樹林帯の道を歩くと何本かの林道を横切り長柄高度を上げて行く。途中に盃流れと言う場所がある。どんなところなのか関心を持ち、標識に従ってその方向に進んで見る。その様子を見るとなんとなく、名前の由来が解るような気がした。ナメ沢の一部が楕円形に窪んで盃のようになっているのだ。きょうは水の流れが無いから、その窪みには水が溜まっていたが、あまりきれいな水には見えなかった。水の流れがあればここは白い飛沫を上げて水が流れ落ちるはずである。


再び林道を横切ることになるが、ここでは山頂まで2時間30分とある。さらに5分ほどで林道にでるが、ここでの標識には山頂まで1時間45分とある。これでこの標識は当てにならないと感じた。それに編笠山じゃなくて編笠岳と書いてあるのも気に入らないところだ。時刻は7時半を過ぎているが、一向に太陽の光を感じない。それは今歩いているところが編笠山の西に当たるということもあるが、それよりも上空にガスが取り巻いていることが容易に想像できた。見晴台と言う標識をみて立ち止まったが、そこは樹林で囲まれてそれらしき場所ではなかった。さらに岩小屋を過ぎると「特別母樹林」に入ったが、特にそれらしき雰囲気はみられない。むしろこの場所にあるもうひとつの「立入禁止」「この山は・・・・・・へ茸の売り払いをした山林です。会員以外が・・・・・」この整合性に違和感を感じた。ここからは九十九折れに急登が続く事になる。ひたすら汗を拭いながら登るだけである。



盃流し

入ってはいけません



急登が終わると、「名所シャクナゲ公園」の標識があるがそれらしき雰囲気は見られない。ただの薮と言うほうが適切に違いない。このあたりから森林限界となり大きな岩石が累々と敷き詰められたルートに変わった。ガスが取り巻き異様な雰囲気が漂っている。「もうそこだ」と書かれたおせっかいな標識が目障りだ。そういえばこの標識は登山口で2時間30分と書いてあったものだ。もうすでに3時間以上歩いているのに山頂に到達していない。おまけにこの疲れた登山者を弄ぶのかと悪態をつきたくもなる。この岩場で登山者二人とすれ違った。トウヤクリンドウの多くなった場所を過ぎつとやっと編笠山の山頂にたどり着いた。



山頂まであとわずか

山頂まであと少し・・・・・山頂までもうちょっと(こんな案内はいらない)



山頂は賑やかな若者のグループが標識前を独占して動きそうに無いので、離れたところに陣取って腰を降ろした。展望は得られず白い闇を見ながらコロッケパンをほおばった。さてこれからどうしようか?権現岳は遠すぎるし、展望が得られないのなら行く必要も無い。これで、ルートは西岳経由で周回することで決まった。


編笠山から青年小屋の道は歩きにくいものだ。別に急ぐ必要も無いのだが、数人を追い越して青年小屋にたどり着いた。さすがに賑やかであったが、天候のせいかもしれないがゆったりとしていてベンチにも空きがあった。とりあえず缶ビールを購入して、天幕場に移動して腰を降ろした。つまみを頬張りながらビールを呑むと実にうまい。ところでTさんの事が気がかりなので、メールを打って送信しておいた。無事に到着しただろうか?願わくは間に合っていて欲しいものだ。展望は目の前にある山頂部分がガスに覆われた編笠山だけだ。テントは二張りで主はどこかに出かけて居るらしい。自分も出来ればこんなところでテントを張ってのんびりとすごしたいものだと思った。時刻は11時を回ったのでここを出発する事にした。数分歩くと水場があり、一口呑んでからだらだらと登る道に取りついた。



編笠山を見ながらラガービール

青年小屋は居酒屋?



このあたりまで来るとすれ違う登山者も多くなってくる。やはり主流は中高年の女性が圧倒的に多い。以前、西岳に登ったときは振り返れば権現岳が見えていたが今日は無理なようだ。青年小屋から40分ほどでマツムシソウが咲く西岳に到着した。山頂には子供を引率した数名のパーティーが陣取っていたので、これまた隅っこのほうに腰を降ろした。メールの着信を確認するとTさんから返信が入っていた。どうやら無事に目的地にたどり着いたが、1時間ほど間に合わなかったということだ。編笠山は山頂部分がわずかながらガスが無くなってきたが、今日はこれ以上の展望は無理だろう。早々にここを引き払って下山する事にする。



西岳山頂直下

西岳山頂

ちょっとだけ編笠山が見えた

不動清水



再び樹林の中の道をひたすら下って行く。何人もの登ってくる登山者とすれ違うが、おそらく青年小屋で一泊なのだろう。林道手前では見晴らしの良いところで、大休止をとり、再びTさんに連絡のメールを出しておいた。不動清水までくると、残りはわずかだった。そこに居合わせた登山者とでしばらく話した後、林道を辿って駐車場に向かった。


帰りは「鹿の湯」でゆっくりと汗を流してから帰路に着いた。

06:38登山口―(.22)―07:00五叉路分岐―(.15)―07:15盃流し―(.38)―07:53特別母樹林―(1.27)―09:20シャクナゲ公園―(.40)―10:00編笠山10:20--(.18)--10:38青年小屋11:13--(.43)--11:56西岳12:05--(1.48)--13:53不動清水13:58--(.13)--14:11登山口



群馬山岳移動通信/2010




この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)